東京慈恵会医科大学 解剖学講座 岡部研究室
THE JIKEI UNIVERSITY SCHOOL OF MEDICINE DEPARTMENT OF ANATOMY
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第20回日本解剖学会関東支部懇話会

「比較形態学研究への期待と未来」(講演会は終了しました)

 比較形態学研究は100年以上前から盛んに行われてきましたが、最近では研究者人口も減り、日本解剖学会におきましても発表演題数は減少の一途にあります。一方で昨今のゲノムデータの蓄積により比較ゲノム研究が盛んになっており、種間・系統間で発生や形態を比較することがゲノムの機能を知る上で重要となってきます。再び比較形態学的研究を発展させていく上で、我々形態学者に期待される研究とはいかなるものなのでしょうか。形態学者がどのような視点で比較形態学研究を進めていけば、格段の研究の発展性が見込まれるかを考えてみたいと思っています。懇話会では、ゲノムレベル・分子レベルでの形態学・発生学、またそういった情報を駆使して新知見を探求する古生物学者や人類学者の方々にお話いただきます。

日時:  平成22年5月22日(土)13:00開場 13:30講演開始
場所:東京慈恵会医科大学高木2号館地下南講堂
    (東京都港区西新橋3−25−8)
会頭:東京慈恵会医科大学解剖学講座 岡部正隆
事務局: 同上 佐藤桃子  momo-sato@jikei.ac.jp 03-3433-1111 内線 2206
参加費:無料(但し交流会は会費2000円(大学院生・学生は1000円)をご負担いただきます)

○ 講演1
脊椎動物における心臓区画化メカニズムの進化発生学的解析
小柴   和子
東京大学   分子細胞生物学研究所エピゲノム疾患センター
心循環器再生研究分野

  脊椎動物の心臓は魚類の一心房一心室から鳥類、哺乳類の二心房二心室へと、その生活環境の変化に伴い、より高次な形態をとるようになった。このような脊椎動物心臓の形態進化は小中学校の教科書にも載っている良く知られた事であるが、どのような分子メカニズムによってこのような形態の違いがもたらされるかは全く明らかにされていない。我々はマウスやニワトリを用いた実験心臓発生学で得られた知見を基に、爬虫類の心臓発生から心室形態進化の謎に迫れるのではないかと考えた。爬虫類は一般に二心房と不完全な一心室を持つとされているが、有鱗目(ヘビ・トカゲ類)、カメ目、ワニ目と心室中隔の発達が異なっている。それぞれの目からグリーンアノール(アノールトカゲ)、アカミミガメ、ミシシッピワニに着目し、心臓形態を調べた所、グリーンアノールは心室中隔をもたない完全な一心室、アカミミガメは不完全な心室中隔を有し、ミシシッピワニでは心室中隔が心室を二区画にわけた二心室であることがわかった。さらにヒトやマウスにおいて心室中隔欠損を引き起こす Tbx5 遺伝子に着目し、その発現様式を爬虫類で調べた所、心室中隔形態に関連した発現様式を示す事が明らかになった。現在我々は心房形態進化の謎に迫るべく、シーラカンスや肺魚を用いて、その他の魚類や両生類との心房形態の比較を詳細に追っている。今回は心室形態進化にとともに、心房形態進化についても言及していきたい。


○ 講演2
脊椎動物の神経系の起源とその多様化について
村上   安則
愛媛大学   大学院理工学研究科   環境機能科学専攻

   脊椎動物は空中から深海まで、地球上の様々な環境に適応しており、その形態は著しい多様性を示す。そして、その適応放散を可能にした要因の一つとして、感覚の受容、統合と行動制御に関わる神経系の大規模な発達が挙げられる。脊椎動物の脳形態は多彩であるが、終脳や中脳など系統間で高度に保存された領域が存在しており、近年の比較形態学ではこうした領域の共通性に注目して脳の起源と進化に関する研究が進められてきた。その結果、脳領域のパターニングに関わる基本システムの進化についてはその概要が明らかになっている。しかしながら、高次機能に関わり、脳の本質とも言える神経回路の進化については不明な点が多い。脊椎動物の神経回路には多様性があり、顎を持たないヤツメウナギと顎を持つサメでは顎骨弓を支配する神経の形態が大きく異なり、カメでは甲羅の進化に伴って体幹を支配する神経系が大きく改変されている。また、終脳では主竜類と哺乳類でその最高中枢領域が全く異なっている。こうした脳の多様性、そしてその進化の過程を知るためには、比較形態学的な解析を行い、形態変化をもたらした要因を探る必要がある。いっぽうでゲノムの理解が進み、無顎類、条鰭類、両生類、爬虫類などから形態進化の基になるゲノム配列の変化を読み解くことが容易になれば、比較形態学によって導かれた仮説の検証が可能になっていくと期待される。

 
○ 講演3
中生代獣脚類における胸郭と呼吸機能の進化
平沢   達矢
理化学研究所   発生・再生科学総合研究センター   形態進化研究グループ

  化石データは、生物の進化史に時間軸を入れるための唯一の情報源であり、地球史と照合して生物進化の要因を探る上で不可欠である。今回は、タイトルにある私自身の研究に加えて、古脊椎動物学の近年の動向について紹介する。
  脊椎動物の進化史において、鳥類の起源と進化はボディプランの大きな改変を伴っていた。これまでに,鳥類は獣脚類という恐竜の1クレードから派生したことが解明されており、精力的な系統解析の結果、獣脚類の系統関係については、ほぼコンセンサスが得られている。そのため獣脚類は、系統発生に沿ってどのように形態や生態が進化してきたかを研究する対象として非常に優れており、ロコモーションの変化や手指の相同性などのさまざまなテーマにわたる研究が展開されてきた。
  現生鳥類は、気?を伴う特殊化した呼吸器を持つことにより、哺乳類などに比べて低酸素に対する際立った耐性を獲得している。 2005 年、中生代獣脚類の椎骨に残る気?の痕跡の分布から、彼らも鳥類型の肺の基本構造を備えていたことが確認された。これに対して、私は換気ポンプとして働く胸郭に注目し、非鳥類獣脚類の化石骨格の計測値を用いて胸郭変形運動を復元した。その結果、これらの動物は、胸郭変形運動のみでは現生鳥類型の空気の流れをつくり出せないことを見いだした。これは、気?が備わった後に、換気メカニズムが中生代獣脚類の系統で変化し、鳥類型呼吸メカニズムが完成したということを示している。

 
○ 講演4
ヒトの進化とゲノム多様性
太田   博樹
北里大学   医学部   解剖学研究室

  ヒトのゲノム多様性に関する情報は、国際 HapMap プロジェクトやヒトゲノム多様性プロジェクトなどの進展により、ここ数年の間に膨大に蓄積され、様々な疾患原因候補アレルや形質を決定する遺伝子が同定されてきている。集団のゲノム情報(すなわちゲノムの種内変異)について最も多く調べられている生物種は、まぎれも無く私達 Homo sapiens であり、 20 世紀前半から存在する集団遺伝学とゲノム科学の融合は、ヒト多様性の研究において最も進んでいる。現代生物学において最も受け入れられている進化の定義は、おそらく「生物集団内で世代を超えた遺伝子頻度変動の連続過程」であるが、これは集団遺伝学における中立理論に基づく生物進化の考え方である。膨大なゲノム情報は、ヒト種内変異の大半が中立であることを示す一方、中立進化を帰無仮説とすることにより、統計学的に selective sweep や平衡淘汰などの痕跡と推定される領域がヒトゲノム中にまれに存在することが明らかになってきている。今回は、こうした昨今のヒトゲノム研究の国際的な動向を紹介し、私達が琉球大学と共同研究を進めている日本列島ヒト集団の系統、形態、生理とゲノム多様性に関する取り組みについていくつかの成果を紹介する。


○ 講演5
比較形態学の将来  -  軟骨魚類、条鰭魚類、肉鰭魚   類の進化からの考察
三宅   力
東京慈恵会医科大学   解剖学講座

  軟骨魚類、条鰭魚類、肉鰭魚類のステム・グループにおける進化はシルル紀に遡るが、その分岐点におけるエピソードには多くの不明点が残されていた。しかし、  (1)  シルル紀ラドロウ世からの条鰭魚類、肉鰭魚類のステム・グループと推測される魚類化石と肉鰭魚類最古の化石の発見と共に  (2)  ミトコンドリアに着眼した魚類系統解析および年代検証により、ステム・グループの進化が少なくとも 4 億 2 千万前に起こっていたことを示唆する近年の2つの研究成果は、形態進化の研究に新しい概念をもたらした。さらに、現世真骨魚類  ( ゼブラフィシュ、メダカ、トゲウオ、フグなど ) 、現世軟骨魚類(ゾウギンザメ)、条鰭魚類(ポリプテルス)、肉鰭魚類(シーラカンス)におけるゲノム比較解析から、現存する原始的魚類は、顎口類の原始的なゲノム構造を保存しつつ、形態学的には 3 グループの形質をモザイク状に持って進化してきたことが明らかとなった。以上の研究でも明らかなように、化石種を含めた真骨魚と現世原始的魚類の比較動物学研究は、比較形態学の理解に大いに貢献する可能性がある。よって今回の発表では、軟骨魚類、条鰭魚類、肉鰭魚類のステム・グループにおける形態学的研究と、現世原始的魚類および現世真骨魚類の進化発生学、ゲノム科学、集団遺伝学的研究が、形態学の将来に及ぼす影響について考察する。

 
2006 © Masataka Okabe